
撮影:木村 雅章
2024
地中の渦
KAAT EXHIBITION 2024 / Earth Spiral
KAAT 神奈川芸術劇場(神奈川)
24.3m×16.5m×5.3m
音楽:阿部海太郎
テキスト:大崎清夏
キュレーション:中野仁詞(公益財団法人神奈川芸術文化財団学芸員)
特殊照明:鈴木泰人
造形・演出サポート:カミイケタクヤ
映像編集:川嶋鉄工所
展示設営:山口達彦(TRNK)
本展アートディレクション&デザイン:藤井良平(goodflat)
リーディング:長塚圭史
トークゲスト:天野賢一
主催・企画制作:KAAT神奈川芸術劇場
協賛:アクセンチュア芸術部 株式会社アートフロントギャラリー
協力:株式会社サンエムカラー 神奈川県教育委員会(埋蔵文化財センター) 横浜市歴史博物館


撮影:木村 雅章
撮影:木村 雅章
KAAT 神奈川芸術劇場で開催した個展。芸術劇場が立地する地域は、先史時代にまで遡る人類の居住の歴史を有し、明治期には開港に伴う外国人居留地の形成を経て、現代横浜の都市的発展の基盤と なってきた。本展は、こうした土地の重層的な時間に着目し、地中に堆積した地層や生活の痕跡を手がかりとして、過去にこの地で生きた「某(なにがし)」を感知することを試みるものである。鑑賞者は地下へと潜る思考的な体験を通じて、現在の風景や日常のあり方を歴史の連続性の中で再認識する契機を得る。
https://youtu.be/I9eV-GlA8Rs?si=-Sn-ZPtlKRkvPhJA

KAAT EXHIBITION 2024 KAAT神奈川芸術劇場の劇場空間と現代美術の融合による新しい表現を展開するKAAT独自の企画シリーズ「KAAT EXHIBITION」。9回目となる本展は、能登半島の先端にある珠洲市の劇場型民俗博物館「スズ・シアター・ミュージアム 光の方舟」を始め、土地の歴史と場所性をテーマとした作品を展開、高い評価を得ている美術作家の南条嘉毅によるここでしか見られない新作インスタレーションを展示する。
コンセプトブックより
南条嘉毅 横浜の地下に潜む時空のスパイラル
中野仁詞
身をよじらせて、あなたが光に差し出した手は、水平線の先を指差すように見えた。
まるで、あちらをごらん、と促すように。
大崎清夏 《ある案内係についての覚え書き》 2024年より
2024年、9本目となるKAAT EXHIBITONは、丹念に調査した地域の歴史を独自の視点で読み解き現代に蘇らせることで評価の高い南条嘉毅による、約400㎡のスタジオを使った壮大なインスタレーションとなる。
2017年、能登半島の先端に位置する石川県珠洲市で開催された「奥能登国際芸術祭」に招待作家として参加した南条は、開催地が植物プランクトンの化石である珪藻土の国内最大の産地という情報をもとに、この珪藻土を研究し作品に使用した。展示では、閉鎖に至った映画館という、かつてここで様々なドラマと対峙したであろう地元の観客の息遣いが残る空間を活用し、ドラマティックなインスタレーションを発表した。当地でこの作品を鑑賞した筆者は、マテリアルを発見して研究するというアプローチ方法と、展示会場のスケールとその会場の様々な要素を活かす巧みな空間構成力を持つ南条の作品は、いつかKAAT神奈川芸術劇場で展開する可能性もあると考え今日に至った。南条はその後、「奥能登国際芸術祭2020+」にて、地元の蔵に眠る生活用具を収集・調査し活用した、劇場型博物館スズ・シアター・ミュージアム「光の方舟」をキュレーションし、高い評価を得ている。
筆者は、2019年5月にアートフロントギャラリーで開催された南条の展覧会にテキスト「熊野の神々が北ほくそ叟笑むものを」を寄せたことで作家自身と知り合った。その展覧会は、二酸化ケイ素 (SiO2) が長い時間をかけて結晶した鉱物、石せきえい英を活用したものであった。石英(水晶・クォーツ)は、一定周期で振動する性質から、精緻な時計の機構に使用されている。このテキストでも南条が興味の矛先にある時の物質の関係(蓄積)について書かせていただいた。
これまで瀬戸内、南房総、珠洲など地方での発表の機会が多かったが南条だが、今回は、横浜という大都市での展覧会となる。拠点とする熊野から何度も足を運んで、2年間かけ横浜の歴史調査を重ねた結果、南条が大きな関心をもったのは「地層」であった。縄文、弥生、江戸、明治、昭和、そして現在に至る膨大な時間の流れを、地層を読み解くことで新作インスタレーションとして展示する。
展示構成は以下の通り。まず鑑賞者は入口で渡されるランプをもってスタジオ内に入り込み、あたかも洞窟のような廊下を進むことになる。この世界を通り過ぎると、4つの直方体が並ぶ大きな空間へ身を投じてゆく。布で覆われた直方体は、中にあるものが朧げに見え隠れしており、鑑賞者はその中身を想像しつつ進んでゆく。そして横浜の海や建物の映像、阿部海太郎による音楽がこれらの直方体と重なり、太古から現代に至る長い歳月とそれぞれの時代を生きた人々の息遣いを感じることとなる。
さらに本展では、詩人の大崎清夏による書き下ろしのテキストが大きな役割を担っている。テキストは南条が本展でテーマとした横浜の地層から導かれる各時代を一人の男が生き続けるというアイデアをもとに書かれており、鑑賞者は、南条が作り出した途方もない時空のスパイラルに身を浸しながら静かに大崎のテキストを読み解いてゆく。
このテキストは、「スズ・シアター・ミュージアム」での朗読劇で関わった劇作家・演出家・俳優でKAAT神奈川芸術劇場芸術監督の長塚圭史によりことばの音として南条のインスタレーションと響きあう。
日常の通勤・通学、ランニング、散歩などで行き交う足下に潜んでいる地層という膨大な時間の証拠。南条は層として地中に重なり沈黙の中にある自然と先人たちの営みの証を、渦が巻き上がるような壮大な運動体として現代に蘇らせる。
(本展企画構成・キュレーター/KAAT神奈川芸術劇場)























